青色事業専従者給与が必要経費にならない?否認事例の紹介
2022.03.25
青色申告専従者給与が必要経費になるための条件
届け出をしても否認される?
同一生計の配偶者や親族に対し、個人事業主が支払った金銭は必要経費に算入できません。
しかし、青色申告者が「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出し、その範囲内で支払う給与であれば必要経費に算入できることは、よく知られています。
しかし、書類さえ提出すれば必ず経費にできるわけではなく、その支給額が「労務の対価」を超えていると、超過分は必要経費になりません。
必要経費に算入できる金額の基準
法律では、下記の要素に照らして、労務の対価として相当であると認められるものしか必要経費にできないと定められています。(所得税法第57条第1項)
・労務に従事した期間
・労務の性質及びその提供の程度
・その事業の種類及び規模
・その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況
「政令で定める状況」とは、下記の3つの状況をいいます。(所得税法施行令第164条第1項)
・青色事業専従者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度
・その事業に従事する他の使用人が支払いを受ける給与の状況及びその事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払いを受ける給与の状況
・その事業の種類及び規模並びにその収益の状況
青色事業専従者給与の否認事例
法令の条文だけでは、実際にどうやって判定するのかわかりにくいと思います。
ですので、国税不服審判所が公開している裁決事例から、労務の対価の超過分があると認定された、比較的新しい事例を見てみましょう。
青色事業専従者給与をめぐる税務調査や審判所の裁決では、「労務の対価として適正な給与額」(以下、「適正給与額」)を計算し、実際の支給額と比べて超過している額を必要経費から除外します。
ですので、どうやって「適正給与額」を計算しているのかが重要です。
専門知識の有無等は考慮されず従業員の給与と比較し判断された事例
事例は、業種は税理士業(!)、対象の青色専従者給与は、事業主の配偶者に支払われたものになります。
このケースでは、下記の2つの給与に基づいて計算した金額のうち、高い方を、適正給与額とする方法が採用されました。
A:各従業員が支払いを受ける給与
B:比較専従者が支払を受ける給与
結果は、BよりもAの方が高かったため、配偶者に支払われた給与のうち、Aを上回る額が必要経費から除外されました。
(参考)国税不服審判所:平成21年6月3日裁決
https://www.kfs.go.jp/service/JP/77/04/index.html
A:各従業員が支払いを受ける給与の状況
Aでは、配偶者以外の従業員のうち、最も支給額の高い1人の給与を、配偶者の労務の提供状況で補正した額が採用されました。
補正は、各従業員の労働時間が明らかでなかったことから、各人の専用パソコンのログから算定した稼働時間で、配偶者と各従業員の労務提供の程度を割り出して行われています。
事業主側は、配偶者が事業の専門的な知識を有すること、自身の業務以外に他の使用人の業務も補佐していること、事業主の経理、給与支払い、社会保険手続きなどの庶務も行っていたことから、労務の性質の違いを主張しています。
しかし、審判所では、
・それらがその事業に従事する従業員にとって特異なものとは認めらない
・担当件数も他の従業員と同程度又は若干上回る程度である
といった理由から、格別に評価することはできないと判断しました。
B:比較専従者が支払いを受ける給与の状況
Bの比較専従者とは、同種・同規模事業者の青色事業専従者のことです。
その選定は、納税地の税務署やその近隣署管内で継続して事業を営む青色申告者のうち、下記の事項が類似しているなどの基準から行われました。
・業種、業態及び事業規模
・配偶者の資格取得状況や労務の内容
その結果、6件の専従者が比較対象として選定されました。
事業主側は、選定された給与のうち、その最高額が最低額の2倍を超えていることを問題視しましたが、「業種の同一性、事業規模の類似性等の基礎的要件に欠けるところがない以上、この程度の差があることをもって合理性がないとはいえない」という旨の判断が行われています。
類似同業者の支給平均額から判断された事例
事例の業種は歯科医業、対象の青色専従者給与は、歯科衛生士である配偶者に支払われたものになります。
このケースの適正給与額の計算には、次の2つの方法が検討されました。
a 使用人給与比準方式
b 類似同業専従者給与比準方式
イメージ的には、aが前の事例のA、bがBにあたります。
結果は、aは採用できない理由があるためbが採用され、配偶者に支払われた給与のうち、bを上回る額が必要経費から除外されました。
a:使用人給与比準方式
前の事例(A)との違いは、aでは、労務の性質がもっとも類似する従業員が基準になったことです。
前の事例(A)では、労務の性質は格別の評価をしない(労務の性質が他の従業員とあまり変わらない)と判断されたので、もっとも給与の高い人が基準になりましたが、通常は、法令どおり、労務の性質が類似している人を基準にします。
しかし、このケースでは、配偶者の労務提供の程度が明らかでなく、客観的な証拠による認定もできませんでした。
よって、労務提供の程度が明らかな従業員と比較することは相当でないとされ、aの方法は採用されませんでした。
b:類似同業専従者給与比準方式
類似同業専従者給与比準方式とは、類似同業者の青色専従者の給与の平均額と比較する方式です。
このケースでの選定基準は、下記のようになります。
・その国税局管内で同じ事業を営む個人事業者であること
・青色申告者で所得税の青色申告決算書を提出している者であること
・年間の売上金額が本ケースの売上金額の2分の1以上、2倍以下の者であること
・本ケースの青色事業専従者と同じ資格を有する、事業主の配偶者であること
事業主側は、この選定基準について、「労務に従事した期間や労務の性質及びその提供の程度が不確定な状況で、どうやってその類似性を担保するのか」と主張したのですが、審判所は「個別具体的事情が捨象される合理的な方法」なので、類似性の担保に問題はないとしています。
(参考)国税不服審判所:令和元年9月6日裁決
https://www.kfs.go.jp/service/JP/116/04/index.html
適正金額は税理士に相談を
他の従業員よりも高い金額を支給している青色事業専従者がいる場合、税務調査では労務の性質と労務の提供状況を必ずチェックされます。
青色事業専従者の適正金額は、税理士等に相談しながら決めましょう。
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